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写真が心を整える-マインドフルネスとしての撮影習慣

はじめに:写真とウェルビーイングの交差点

日々の忙しさの中で、心のざわつきを感じる瞬間は誰にでもあります。そんなとき、カメラを手に取り、ファインダー越しに世界を見つめる行為が、私たちの内面に静けさをもたらすことがあります。写真は単なる記録手段ではなく、心を整えるための“道具”にもなり得るのです。特にプロ・アマを問わず、カメラマンにとっては、撮る行為そのものがマインドフルネスの実践であり、心身のウェルビーイング(well-being)に深くつながっています。

写真とマインドフルネス:今ここにあるということ

マインドフルネスとは、「今、ここ」に意識を向ける心のあり方を指します。過去の後悔や未来への不安にとらわれず、現在の経験に気づきを持って接する態度です。カメラを構えるという行為は、自然とその状態に導いてくれます。被写体の細部に目を凝らし、光の移ろいに集中することで、思考は静まり、感覚が研ぎ澄まされていきます。

石原眞澄著『「撮る」マインドフルネス』では、写真を撮る・観る・言葉にするという一連のプロセスが、心の整理や癒やしにつながると説かれています。これは、単に美しい写真を撮ることではなく、自分自身と丁寧に向き合う手段としての写真という考え方です。。

写真撮影がもたらす心理的効果

  1. ストレスの軽減:自然風景や日常の美しさを切り取ることで、リラックス効果が得られ、ストレスホルモンの分泌が抑えられるとされています。
  2. 自己肯定感の向上:写真を通じて自分の視点や感性を表現することが、自己受容や自信につながります。
  3. レジリエンス(回復力)の強化:困難な状況でも、希望や美を見出す視点を育むことができるとされています。
  4. 感情の可視化:セルフポートレートや写真日記を通じて、言葉にできない感情を視覚化することができます。

特にポートレート撮影では、他者と向き合いながら、その人の魅力や本質を写し出そうとするプロセス自体が、深い共感と集中を必要とします。この過程が、撮る側の心にも深く作用するといえるでしょう。


日常で実践する「撮影マインドフルネス」

写真を通じて心を整えるためには、特別な機材や技術は必要ありません。私自身、カメラマンとして仕事に追われる日々の中で、ふと足を止めて撮影した何気ない一枚に救われたことが何度もあります。構図や露出を気にせず、ただ目の前の光や色、空気の揺らぎを感じてシャッターを切る——そんな瞬間にこそ、心が静まり、整っていく実感があります。以下のようなシンプルな習慣から始めてみてください。

  • 1日1枚、気になるものを撮る:花、影、空、机の上のカップでもかまいません。心が「おっ」と反応した瞬間を逃さずに撮影しましょう。
  • 撮ることに集中する時間を設ける:10分でも構いません。スマホの通知を切り、意識的に「見る・切り取る」時間を作りましょう。
  • 撮った写真にタイトルをつける:それによって、自分の気持ちや視点を言語化し、振り返ることができます。
  • SNSにシェアしない写真を増やす:他者の反応を目的としない、純粋な“自分のための写真”を撮る習慣を持ちましょう。

おわりに:写心のすすめ

カメラマンとして多くの人々と関わり、多様な瞬間を切り取ってきた中で強く感じるのは、「写真は心を写す鏡である」ということです。技術や芸術性を超えて、写真にはその人の“今”がにじみ出ます。そしてその行為自体が、心を整え、前を向く力を育んでくれるのです。

写真は、記憶を残すためだけのものではありません。心の声を聴き、世界と優しくつながるための、小さな実践でもあります。ウェルビーイングを求める現代において、私たちはもっと写真の力を信じていいのではないでしょうか。

参考文献
・石原眞澄著 2023年 『「撮る」マインドフルネス』 日本実業出版社

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