80歳になっても20本以上自分の歯を保ちましょうという、いわゆる「8020運動」が提唱されてから今年で36年。20本以上の歯があれば、食生活にほぼ満足することができると言われているため「生涯、自分の歯で食べる楽しみを味わえるように」との思いから、この運動が始まりました。
しかし、現状では80〜84歳の平均歯数は16.8本、20本以上の歯を保っている人の割合は45.6%(2022年歯科疾患実態調査)と、目標を達成している人は半数を下回っており、歯の健康寿命を延ばすことが課題となっているのが現状です。

口腔環境が身体全体の健康にも影響
お口の環境は、口の中だけに悪影響を与えるわけではなく、特に歯周病は糖尿病、心血管疾患、呼吸器疾患、妊娠の悪影響、さらには一部のがんとも関連していると言われています。身体的・精神的・社会的に健康で幸福な生活を送るためには、歯の健康維持が欠かせません。
そこで、高齢者における口腔の健康(現在歯数や義歯の使用)と、身体・精神・社会的側面を含む包括的なWell-being(幸福感)との関連を明らかにした研究の成果が、2025年2月に発表されましたのでご紹介します。
口腔の健康とウェルビーイングとの関係
日本全国65歳以上の高齢者87,201人(平均年齢74.87歳)を対象に行われた調査で、現在の歯の本数および歯科補綴物(義歯など)の使用の有無が、ウェルビーイングと関連していることが明らかになったそうです。
■ウェルビーイングスコア(指数)
調査の方法は、幸福感、健康状態、人生満足度、目的意識、社会的つながりなどを総合してウェルビーイングスコア(最高スコアは10で、参加者平均は 6.77)として評価した場合、保有歯が0〜9本の人で、義歯を使用している人は使用していない人と比べると、ウェルビーイングスコアが +0.21 ポイント高いことが分かりました。また、義歯を使っていない人のうち、20本以上の歯を持つ人は、0〜9本の人に比べてウェルビーイングスコアが +0.34 ポイント高い結果になったとのことです。

■調査結果から言えること
- 保有歯が多い人ほど、Well-beingが高い。
- 歯の本数が少なくても、義歯を使用していればWell-beingが高い。
歯を失うと、咀嚼がうまくできずに食事が楽しめなくなります。そのまま放置すると上述したように、身体の健康状態にも影響を及ぼすだけでなく、会話がうまくできない、人と話したくない、外出したくない等、精神的・社会的な生活の質にも影響が出てくる可能性が高まります。
口腔の健康状態を良好に保つことで、自尊心や社会的な交流、生活の質に好影響を及ぼし、身体的・精神的・社会的なウェルビーイング向上にもつながるとのことですので、いつまでも健康な歯を保てるよう、今のうちからしっかりと口腔環境を整えていきましょう。
参考文献
王柯煒・木野志保・松山祐輔・芝孝一郎・中込敦士・近藤克則・白井こころ・笛木賢治・相田潤(2025).Association between oral health and multidimensional flourishing: A cross-sectional study from Japan Gerontological Evaluation Study (JAGES).Journal of Prosthodontic Research. 高齢者の歯の本数とウェルビーイングの関係を解明(アクセス日:2025年7月30日)
財津崇(2023).口腔の健康とWell-beingの関連. 厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
分担研究報告書.(アクセス日:2025年7月30日)