医療の進歩と生活環境の改善により、私たちは“長く生きる”ことだけでなく、“どう生きるか”を問われています。
この「Longevity(ロンジェビティ)」=長寿の時代をより豊かに生きるためには、身体的な健康にとどまらず、心のバランスを保ち、未来に向けて自分らしく生き続けるためのウェルビーイング(well-being)の視点が欠かせません。
「予防」は未来の幸福への投資
健康寿命を延ばすうえで、病気になってから治す「治療」よりも、なる前に整える「予防」が重視されつつあります。この考え方は、身体のケアだけでなく、心や生活リズムのメンテナンスにも当てはまります。
慢性的なストレスや睡眠不足、食生活の乱れは、知らず知らずのうちにホルモンバランスや自律神経を揺らし、免疫機能の低下や老化の促進につながります。
オックスフォード大学の研究によると、睡眠が規則的な人は不規則な人に比べ、全死亡リスクが最大48%、がん死亡リスクが39%、心代謝系疾患のリスクが57%低下することが示されています(Windred et al., 2024)。

つまり、「早寝早起き」「栄養を意識する」「適度に体を動かす」――その一つひとつが、未来の自分への“幸福の貯蓄”なのです。
エイジテックで可視化する加齢と健康
近年のエイジテック(Agetech)は、「年齢を科学で測る」技術として急速に進化しています。
血液や尿、代謝、睡眠、活動量などのデータをAIで統合解析し、生物学的年齢(Biological Age)と実年齢の差を可視化することが可能になりました(Levine, 2018;Zhavoronkov, 2019)。
最近では、ウェアラブルデバイスが睡眠中の呼吸や心拍数、体温の微妙な変化をリアルタイムでモニタリングし、翌日の疲労回復や集中力を予測。
さらに、マイクロRNAや炎症マーカーといったバイオマーカー解析を通じて、細胞レベルでの老化リスクを把握できる技術も登場しています(Lopez-Otín et al., 2023)。
たとえば、米国で開発された「Aging.AI」や「InsideTracker」では、わずか数ミリリットルの血液から40以上の健康指標をAIが解析し、「あなたの体は実年齢より何歳若い(または老けている)」かを提示。
これにより、食事・運動・サプリメントの最適化を科学的根拠(エビデンス)に基づいて行えるようになりました(Topol, 2019;Piwek et al., 2016)。

これはまさに、予防医療とエイジテックが融合した新しいウェルビーイングの実践例です。
従来の「体調が悪くなってから病院に行く」という行動から、「データで体を先に整える」方向へと、健康の主導権が個人へ移行しています。
健診データを活用したライフスタイル改善
予防医療の中心にあるのが健診です。定期的な健診は、健康状態の早期把握と生活改善の指針として不可欠です。血圧・血糖値・体脂肪率などの数値をグラフで可視化することで、自分の生活習慣がどのように健康へ影響しているかを“見える化”できます。
桜十字グループの健診施設では、最新の設備と専門スタッフによる総合健診が受けられ、自分の体の状態を科学的に把握することが可能です。 全国の桜十字健診施設はこちら
Longevity × Well-being ― “長生きする”から“良く生きる”へ
ロンジェビティの本質は、寿命を延ばすことではなく、「自分らしく生きる時間を増やす」ことにあります。そのために重要なのは、医療技術だけでなく、自分の心と体に耳を傾ける習慣です。ウェルビーイングとは、「自分を大切にする生き方」そのものです。
小さな生活習慣の見直し、そしてエイジテックを活用した先端のケアは、10年後の幸福の質を変える力を持っています。予防医療と最新のエイジテック、さらに再生医療を組み合わせることで、私たちは“老いを遅らせる”のではなく、“老いを選び取る”時代に生きることができます。
年齢に縛られず、自分の体と向き合いながら整え、成熟していく――それこそが、ロンジェビティ時代のウェルビーイング設計です。
参考文献
・Windred, Daniel P., et al.(2024).“Sleep regularity is a stronger predictor of mortality risk than sleep duration: A prospective cohort study.” Sleep, 47(1), zsad253.
・Levine, M. E. (2018). “Modeling the rate of aging: The pace and shape of aging.” eLife, 7:e40458.
・Zhavoronkov, A. (2019). The Science of Aging and Longevity. Springer.
・Piwek, L., Ellis, D. A., Andrews, S., & Joinson, A. (2016). “The rise of consumer health wearables: Promises and barriers.” PLoS Medicine, 13(2), e1001953.
・Topol, E. (2019). Deep Medicine: How Artificial Intelligence Can Make Healthcare Human Again. Basic Books.
・Lopez-Otín, C., et al. (2023). “The hallmarks of aging: An update.” Cell, 186(2), 243–278.
